一般社団法人 日本鉄道電気技術協会

お知らせ

TOP > お知らせ > 運輸安全委員会事故調査報告書【H28年6月30日公表】

運輸安全委員会事故調査報告書【H28年6月30日公表】

投稿日時:2016-06-30 00:00:53 (1424ヒット)

【鉄道事故:2件】

番号 事業者、事故種類、発生日時・場所 事故概要 原   因
○東海旅客鉄道株式会社
○列車火災事故
○H27.6.30(火)11時30分ごろ
○神奈川県小田原市
○東海道新幹線 新横浜駅~小田原駅間(複線)
東京駅起点66k920m付近
東海旅客鉄道株式会社の東海道新幹線東京駅発新大阪駅行き16両編成の下り第 225A列車(のぞみ225号)は、平成27年6月30日、新横浜駅を定刻(11時19分)に出発した。
11時30分ごろ、列車の運転士は、速度約250km/hで力行運転中、運転台のモニタ画面に1両目のトイレに設置された連絡用ブザーが扱われた表示を確認した。直後に2両目の客室内に設置された非常ブザーが扱われたことを確認したため、非常ブレーキを使用するとともに、車内放送で車掌に1両目の確認をするように連絡した。
一方、列車の車掌は、4両目で改札を行っていたところ、乗客から1両目に油をまいている乗客がいるとの申告を受け、1両目へ向かう途中に1両目で火が出たことを見たため、業務用に所持している携帯型の電話機で火災が発生した旨の車内放送を行った。
列車の停止後、運転士及び車掌は、1両目の車内の確認をしたところ、後側デッキに倒れている乗客1名を発見したため、救護活動を行った。また、前側の客室内の通路にも周囲等がくすぶっている中で倒れていた乗客1名を発見したため、消火器で消火作業を行った。
列車には、乗客約900名、運転士1名、車掌3名、パーサー5名が乗車していたが、このうち、1両目で倒れていた乗客2名は死亡した。また、乗客25名(うち、重傷者2名)、運転士及び車掌2名が負傷した。
この火災により、列車は、1両目の前側から中央部までの座席、床、壁、天井等が焼損した。
本事故は、本件列車に乗車していた乗客が、1両目の車内において、ガソリンをまき、自ら火をつけたため、発生したものと推定される。
乗客が自ら火をつけたことについては、本人が死亡しているため、その詳細を明らかにすることができなかった。  
再発防止策 本事故により一般の乗客が死亡したことについては、1両目の客室内で異常を認知した後に自主的に1両目の後側デッキまで避難したが、火災により発生した熱風を吸引したことによる気道熱傷により窒息死したものと考えられる。しかし、その他の状況については、明らかにすることはできなかった。
また、多数の乗客が負傷したことについては、鉄道車両内において、可燃性物質(ガソリン)が着火されたことで急激に影響範囲が広がり、乗務員が異常を認知してから、乗客を避難誘導するために必要な時間がなく、乗客が、避難開始後に火災が発生すること及び火災の影響範囲を想定できなかったことが関与した可能性があると考えられる。
同社においては、「危険物や不審物」に対して係員への申告協力を乗客へ求める啓発活動や、乗務員への避難誘導の訓練などの従前からの取組は、本事故においても、被害の軽減に一定の貢献を果たしたものと考えられるが、火災に巻き込まれて一般の乗客に死傷者が発生した。
このことから、鉄道事業者等は、同種の事故における更なる被害の軽減のため、線区の状況を踏まえ、必要に応じ、乗務員が避難誘導に向かうまでの間に、乗客が自主的にできるだけ速やかに火災又はその兆候が見られた車両から離れた車両へ向かって、避難行動を起こすようにするための啓発活動などを検討することが望まれる。

参考資料1(JR東海・東海道新幹線)

番号 事業者、事故種類、発生日時・場所 事故概要 原   因
2 ○西日本旅客鉄道株式会社
○鉄道人身障害事故
○H27.8.8(土)17時27分ごろ
○福岡県宮若市
○山陽新幹線 小倉駅~博多駅間
四郎丸トンネル内
西日本旅客鉄道株式会社の新大阪駅発鹿児島中央駅行き8両編成の下り第561A列車(さくら561号)の運転士は、平成27年8月8日17時27分ごろ、小倉駅~博多駅間にある四郎丸トンネル内を速度約295km/hで走行中に停電を認めたため、列車を非常ブレーキで停車させた。
列車停止後、車内販売員は、3両目の前から4列目左窓側の席に座っていた乗客から車体の左側面からの強い衝撃により左腕等を負傷したとの申告を受けた。
車内販売員からの連絡により3両目に駆けつけた車掌は、負傷した乗客の座席横の側窓付近に損傷があることを確認した。
また、車掌が車外から車両点検を行ったところ、3両目左側面に複数の損傷があることを確認した。
18時13分ごろ、列車は運転を再開し、定刻より約59分遅れて博多駅へ到着した。その後、列車を車両基地に入庫させ確認したところ、2両目左側最前部に設置されている側フサギ板が落失していた。
電力社員が線路巡回をしたところ、四郎丸トンネル内の上下線の間で側フサギ板を発見した。
列車には、乗客約500名、乗務員2名(運転士、車掌)及び車内販売員2名が乗車していた。なお、上述の乗客1名以外に、負傷者はいなかった。
本事故は、山陽新幹線四郎丸トンネル内を速度約295km/hで走行中の列車の2両目左側最前部の車体に設置されていた側フサギ板が脱落し、車体左側面とトンネル側壁等に接触しながら、3両目4A席付近の車体左側面に当たり、この衝撃が車内の同席に着座していた乗客に伝わったため乗客が負傷したものと考えられる。
側フサギ板が脱落したことについては、取付ボルトの締付トルクが所定のトルク値に達しておらず、手締め相当の締め付けであったため、列車の走行による振動によりボルトが脱落し、列車の走行による走行風などで車体から脱落したものと考えられる。
ボルトが手締め相当の締め付けであったことについては、本事故発生前の直近で実施した走行試験に伴う付帯作業において、側フサギ板を取り付けた際に、側フサギ板のボルトを所定のトルク値で締め付けないままで作業を終了した可能性があると考えられる。
側フサギ板のボルトを所定のトルク値で締め付けないままで作業を終了したことについては、作業者に対する役割分担、作業方法の指示、作業対象となる側フサギ板の位置を明確にしないまま作業が行われたことが関与した可能性があると考えられる。
また、走行試験に伴う側フサギ板の取付作業後から本事故が発生するまでの間に、交番検査が行われているが、交番検査時における合いマークのずれのないことの確認が徹底されていなかったことが関与して、交番検査時に側フサギ板のボルトの緩みを発見できなかったと考えられる。
再発防止策 〇走行試験に伴う通常の検査以外の作業体制等について
本事故発生前の直近で実施した走行試験に伴う付帯作業において、本件フサギ板を取り付けた際に、作業者に対する役割分担、作業方法の指示、作業対象となる側フサギ板の位置を明確にしないまま作業が行われたことにより、本件フサギ板の取付ボルトを所定のトルク値で締め付けないままで作業を終了した可能性があると考えられる。
したがって、同社は、臨時修繕作業で過去の側フサギ板取付ボルト落失事例の対応策として行っている2.8.1(4)に記述したフサギ板の取扱い方法(チェックシートの作成等)を走行試験に伴う付帯作業時にも適用するなどし、確実に作業が実施されるような体制とするとともに、側フサギ板の取り外しを伴う他の作業の洗い出しを行い、同種の事象を発生させないための対応をとることが必要である。
また、走行試験中及びその終了後の営業線で列車を走行させる際の設備保守業務(車両の検査・修繕)については、車両検査修繕責任者(本社検修担当部門)から車両基地走行試験部門に委託して実施していたが、本事故を踏まえ、日々、検査業務を実施することで作業の標準化が図られる部門である車両基地で通常検査を担当している部門に委託するなどして実施することが必要である。
〇交番検査時における合いマークの確認の徹底
走行試験に伴う付帯作業での側フサギ板の取付作業後から本事故が発生するまでの間に、交番検査が行われているが、交番検査時における合いマークのずれのないことの確認が徹底されていなかったことが関与したことにより、交番検査時に本件フサギ板及びNo.2フサギ板の取付ボルトの緩みを発見できなかったと考えられる。
したがって、同社は、交番検査時における合いマークにずれのないことの確認を徹底するとともに、現場で用いている作業マニュアル等が会社として求める検査方法と整合しているか、また、現場の作業の実態が適切なものとなっているか定期的に確認することが必要である。
なお、合いマークにずれのないことの確認に当たっては、側フサギ板の取付ボルト一つ一つについて確実に確認できる方法を定め、それを徹底することが望ましい。

参考資料2(JR西日本・山陽新幹線)

【鉄道重大インシデント:1件】

番号 事業者、インシデント種類、発生日時・場所 事故概要 原   因
3 ○九州旅客鉄道株式会社
○その他(鉄道事故等報告規則第4条第1項第10号の「前各号に掲げる事態(第3号の「列車が停止信号を冒進し、当該列車が本線における他の列車又は車両の進路を支障した事態」)に準ずる事態」に係る鉄道重大インシデント)
○H27.5.22(金) 12時23分ごろ
○長崎線 肥前竜王駅構内
九州旅客鉄道株式会社の博多駅発長崎駅行き7両編成の下り特急第2019M列車は、平成27年5月22日、博多駅を定刻(11時15分)に出発した。その後、同列車の運転士は、肥前白石駅~肥前竜王駅間を速度約100km/hで惰(だ)行(こう)運転中、肥前竜王駅下り場内信号機の進行現示を確認喚呼した後、異音を感知したため、直ちに非常ブレーキを使用し列車を停止させた。その後停止した状況を輸送指令員に連絡した。
輸送指令員は連絡を受けた後、下り特急第2019M列車と上り特急第2020M列車の行き違い駅を肥前鹿島駅から肥前竜王駅に変更した。
下り特急第2019M列車の運転士は異音感知現場の確認及び車両の点検を行い、輸送指令員の指示を受け、運転を再開したところ、本来の進路と異なる肥前竜王駅1番線に進入したことを認めたため、直ちにブレーキを使用し列車を停止させた。
一方、上り特急第2020M列車の運転士は、輸送指令員からの行き違い駅の変更の通告を受け、肥前鹿島駅を出発し、肥前竜王駅の1番線の所定停止位置に停止したところ、同じ1番線前方に下り特急第2019M列車が停止していることに気付いた。
本重大インシデントは、進行信号を現示している肥前竜王駅下り場内信号機を越えた位置に停止した下り特急列車が、同信号機に停止信号が現示された後、輸送指令員の指示により運転再開された結果、同信号機の停止信号を冒進した状態となり、同駅の1番線に停車する予定の上り特急列車に対する過走余裕距離の区間内に進入し、その後、輸送指令員の指示及び信号の現示に従い運転された上り特急列車が上り場内信号機を越えたため、過走余裕距離の区間に2列車が同時に運転される可能性が生じる事態になり、発生したものと考えられる。
下り特急列車が停止信号を現示している下り場内信号機を冒進した状態となり、上り特急列車に対する過走余裕距離の区間に進入したことについては、下り特急列車運転士と輸送指令員との間で、下り特急列車の停止位置に関する認識が異なる状況で、
(1) 輸送指令員が下り場内信号機を復位し、上り特急列車の肥前竜王駅1番線への進路を構成した結果、過走余裕距離の区間内にある分岐器が1番線側に転換していたこと、
(2) 輸送指令員が下り特急列車運転士に対して停止位置に関する詳細な確認を行わずに、運転再開の指示を行ったこと
から、既に駅構内に進入していると認識していた下り特急列車運転士が、場内信号機の現示確認を行わずに、運転を再開したことによるものと考えられる。
なお、輸送指令員が下り特急列車運転士に運転の再開を指示したことについては、下り特急列車が肥前竜王駅下り場内信号機の付近ではなく、同信号機の外方(がいほう)で、肥前白石駅方へ離れた位置に停止していると認識して、運転再開後に場内信号機の停止信号の現示を確認して停止すると判断したことが関与したものと考えられる。
また、下り特急列車運転士と輸送指令員の間で列車の停止位置に関する認識が異なっていたことについては、同社が決めた停止位置の報告及び確認の方法が遵守されていなかったことが関与したものと考えられる。なお、その背景には、同社が報告や確認の作業実態を把握していなかった状況があったと考えられる。
再発防止策 本重大インシデントは、異音感知のため場内信号機付近に停車した際、運転士と輸送指令員の間で列車の停止位置について正確に確認せず、その位置に関する認識が異なった状況で、運転を再開したことが主たる要因であると考えられる。
同社において過去に、運転士と輸送指令員の間で停止位置に関する認識が異なるという事象が発生し対策を策定したにもかかわらず、その教訓が生かされていなかったことを考えれば、同社は、安全の確保が最優先であることを踏まえ、同様の事態の再発防止を図るために以下の対策を確実に講じるようにする必要がある。
(1) 運転士に対して、運転の途中で停止した場合、輸送指令員等に停止位置等の詳細情報(信号機の有無、信号機との位置関係等)を報告するよう徹底すること
(2) 輸送指令員に対して、運転の途中で停止した列車に関して、制御指令卓画面の軌道回路短絡表示からだけでなく乗務員等から詳細情報を得て、停止位置と信号機の建植位置との関係等から正確に停止位置を確認するよう徹底すること
(3) 乗務員と輸送指令員等が無線で通話する際に、運転に関する情報は、相互に確認するよう徹底すること(復唱の徹底)
(4) 列車が運転の途中で停止した場合の上記取扱いに関して、関係者への教育訓練内容の充実を図ること
(5) 同社は、事故等の対策について、その背景や理由を十分に教育する仕組みを確立させ、さらに、周知したことによって終了とするのではなく、各現業機関における作業実態を把握し、必要に応じて見直すこと

参考資料3(JR九州・長崎線)