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運輸安全委員会事故調査報告書【H24年11月30日公表】

投稿日時:2012-11-30 00:00:32 (1205ヒット)

【鉄道事故:1件】

番号 事業者、事故種類、発生日時・場所 事故概要 原因
1 西日本旅客鉄道株式会社
列車脱線事故(踏切障害に伴うもの)
H23.11.29(火)6:05ごろ
石川県加賀市
北陸線加賀温泉駅~大聖寺駅間(複線)新菅波踏切道(第1種踏切道)米原駅起点141k841m付近
西日本旅客鉄道株式会社の北陸線富山駅発大阪駅行き9両編成の上り特急第4002M列車(サンダーバード2号)は、平成23年11月29日、加賀温泉駅を定刻(6時04分)に通過した。
列車の運転士は、直線区間を減速運転中、新菅波踏切道に普通乗用自動車を認め、直ちに非常ブレーキを使用し、気笛を吹鳴したが間に合わず、列車は普通乗用自動車と衝突し、同踏切道から約300m行き過ぎて停止した。
列車は、1両目前頭下部(車両は前から数え、前後左右は列車の進行方向を基準とする。)が破損し、前台車第1軸が左側へ脱線した。また、普通乗用自動車は大破したが、火災の発生はなかった。
列車には、乗客約90名、運転士1名及び車掌2名、客室乗務員1名が乗車していたが、死傷者はいなかった。普通乗用自動車には運転者のみが乗車していたが、車外に出ていたため無事であった。
本事故は、本件踏切が交通規制により通行止めになっているにもかかわらず、本件運転者が本件踏切手前に建植されている通行止標識を見落として踏切に進入し、本件自動車が踏切道から落輪したまま停滞していたため、本件列車と本件自動車が衝突し、その後、本件列車が本件自動車を前面下部に巻き込んで走行したことにより、第1軸の車輪が浮き上がって、停止までの間にレールを乗り越えて脱線したものと推定される。

北陸線路線図

事故現場略図

【鉄道重大インシデント:1件】

番号 事業者、インシデント種類、発生日時・場所 インシデント概要 原因
1 北海道旅客鉄道株式会社
施設障害(鉄道事故等報告規則第4条第1項第7号の「鉄道線路、運転保安設備等に列車の運転の安全に支障を及ぼす故障、損傷、破壊等が生じた事態」に係る鉄道重大インシデント)
平成23年6月14日 20時50分ごろ(1件目のインシデント)
6月14日 21時48分ごろ(2件目のインシデント)
6月15日  8 時43分ごろ(3件目のインシデント)
6月16日 11時12分ごろ(4件目のインシデント)
北海道勇払郡
石勝線追分駅構内(単線)
1件目のインシデント
北海道旅客鉄道株式会社(以下「同社」という。)の追分駅発夕張駅行き1両編成の下り普通第2647D列車は、平成23年6月14日(火)、追分駅1番線を定刻(20時50分)に出発した。
追分駅の信号扱室で信号を扱っていた社員は、当該列車が1番線から出発したにもかかわらず、表示盤にある同番線の出発信号機の表示灯が緑色点灯のままで、停止現示を示す滅灯状態にならないことを認めた。連動装置の作動記録によれば、この時、出発信号機は停止信号を現示していなかった。
  2件目のインシデント
同社の札幌駅発帯広駅行き4両編成の下り特急第39D列車(スーパーとかち9号)は、平成23年6月14日追分駅1番線を定刻(21時46分)に出発した。
1件目のインシデント発生時に信号を扱っていた社員は、当該列車が1番線から出発したにもかかわらず、表示盤にある同番線の出発信号機の表示灯が緑色点灯のままで、停止現示を示す滅灯状態にならないことを認めた。連動装置の作動記録によれば、この時、出発信号機は停止信号を現示していなかった。
  3件目のインシデント
同社の札幌駅発帯広駅行き5両編成の下り特急第31D列車(スーパーとかち1号)は、平成23年6月15日(水)、追分駅1番線を定刻(8時40分)に出発した。
1件目及び2件目のインシデント発生時に信号を扱っていた社員とは別の社員は、当該列車が1番線から出発したにもかかわらず、表示盤にある同番線の出発信号機の表示灯が緑色点灯のままで、停止現示を示す滅灯状態にならないことを認めた。また、工事を担当する社員が、この時、出発信号機は停止信号を現示しないことを確認した。
  4件目のインシデント
同社の千歳駅発夕張駅行き1両編成の下り普通第2633D列車は、平成23年6月16日(木)、追分駅4番線を定刻より2分遅れて(11時11分)出発した。
1件目から3件目のインシデント発生時に信号を扱っていた社員とは別の社員は、当該列車が4番線から出発したにもかかわらず、表示盤にある同番線の出発信号機の表示灯が緑色点灯のままで、停止現示を示す滅灯状態にならないことを認めた。連動装置の作動記録によれば、この時、出発信号機は停止信号を現示していなかった。
本重大インシデントは、同社が将来のCTC化及びPRC化に向けた改良工事時の作業において、石勝線下り出発信号機及び室蘭線下り出発信号機の進路を同時に構成した際に、下り出発信号機の信号制御リレーに電流が回り込む回路が構成された状態であったため、列車が石勝線の下り出発信号機の内方に進入したにもかかわらず、進行現示から停止現示に変化しない状態が複数回発生したものと考えられる。
これは、配線作業において、
 (1) 新設リレーのプラス側を、切替プラグを介さずに既設設備に接続したこと、
 (2) 新設リレーのマイナス側を互いに接続したこと、
 (3) リレー架には、新設したリレーが挿入された状態であったことから、石勝線と室蘭線の進路が同時に構成されると、互いに接続された新設リレーのマイナス側を経由した回路が構成され、設定した各進路に対応する信号制御リレーに電流が回り込む回路になったものと考えられる。
これについては、
 (1) 既設設備を改良後の設備に変更するための方法として切替プラグを使用する場合は、既設設備のプラス側及びマイナス側の両側に切替プラグを挿入することを原則とするという社内規則が守られていなかったこと、
 (2) 信号保安装置である連動装置の改良工事において、既設設備に配線等を行う工事は列車運行に影響する作業として取り扱うことが徹底されていなかったこと、
 (3) 電気結線図のダブルチェックは行われていたが、切替プラグなどを記載した配線図については、当該部分の事前チェックが行われていなかったこと、
 (4) 配線図が承認される前に配線作業が行われていたこと、
 (5) 配線作業の進捗管理が適切に行われていなかったこと
が関与したものと考えられる。
また、当該部分の配線図の事前チェックが行われていなかったことについては、工事の監督を行う者と工事を請け負う者が、他工事の業務を兼務しており、作業が輻輳していたため一部しか事前チェックが行われていなかったことが関与した可能性があると考えられる。
なお、インシデントが複数回発生したことは、停止現示となるべき信号機が停止現示にならない事象が発生した際に、インシデントが発生したと認識されなかったこと、緊急時連絡体制をとらなかったこと及び社員同士の引継ぎが適切に行われなかったことが関与したものと考えられる。
勧告 本重大インシデントは、同社が、安全の根幹に係る信号保安装置である連動装置の改良工事において、既設設備と改良後設備を接続する切替プラグを挿入するルールを守らず、請負会社が作成した配線図のチェックを十分に行わず、かつ、配線作業の進捗管理が不適切であったために発生したと考えられる。また、インシデントが複数回発生したことは、停止現示となるべき信号機が停止現示にならない事象が発生した際に、安全上問題となる重大な事象であるとの認識を持たなかったこと、そのために緊急時連絡体制が活用されなかったこと及び社員同士の引継ぎが適切に行われなかったことが関与したと考えられる。
運輸安全委員会は、本重大インシデントの調査結果を踏まえ、輸送の安全を確保するため、同社に対し、運輸安全委員会設置法第27条第1項の規定に基づき、以下のとおり勧告する。
(1) 同社は、再発防止策として、切替プラグの挿入箇所、各種図面のチェックなど、工事施工において既設の信号保安設備に影響を与えない方策を定め、信号扱い者については、停止現示となるべき信号機の表示灯が停止現示を示す滅灯状態にならない事象を確認した際に行うべき方法を運転取扱いマニュアルに明記することとしている。これらは、再発防止に対して効果があると考えられるが、同社社員には、これらの施策の趣旨を真に理解させ、異常発生時に適切な対応をとることができるように教育訓練を継続実施していくこと。
(2) 同社では、平成21年1月15日函館線において、停止現示となるべき閉そく信号機が停止現示にならないという重大インシデントが発生しており、その後、再発防止策が講じられていると考えられるにもかかわらず、本重大インシデントが発生したことに鑑み、信号保安装置の工事施工等について、施工体制や管理方法等を再点検し、同社社員以外の者をも含む工事に従事する者に基本動作を定着させ、更なる事態が発生しないように、安全対策について検討するとともに必要な措置を講ずること。

※運輸安全委員会設置法第27条第1項(原因関係者への勧告)
委員会は、事故等調査を終えた場合において、必要があると認めるときは、その結果に基づき、航空事故等、鉄道事故等若しくは船舶事故等の防止又は航空事故、鉄道事故若しくは船舶事故が発生した場合における被害の軽減のため講ずべき措置について原因関係者に勧告することができる。

石勝線路線図