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運輸安全委員会事故調査報告書【H29年11月30日公表】

投稿日時:2017-11-30 00:00:00 (1418ヒット)

【鉄道事項:2件 重大インシデント:1件】

番号 事業者、事故種類、発生日時・場所 事故概要 原   因
○九州旅客鉄道株式会社
○列車脱線事故
○H28.4.14(木)21時26分ごろ
○熊本県熊本市
 九州新幹線 熊本駅~熊本総合車両所間
 博多駅起点99k160m付近
博多駅発熊本駅行き6両編成の第5347A列車は、熊本駅到着後、回送列車として、熊本駅を定刻(21時25分)に出発した。その後、速度約78km/hで走行中に、運転士は、下から突き上げるような縦揺れを感じ、すぐにノッチオフして非常ブレーキ操作を行った。縦揺れの後、大きな横揺れがあった。列車が博多駅起点99k461m付近に停止した後、運転士が降車して床下を確認したところ、6両全ての車両が脱線していた。
熊本駅~熊本総合車両所間は、車掌が乗務せず、運転士のみ乗務していたが、死傷者はいなかった。
なお、平成28年4月14日21時26分ごろ、「平成28年(2016年)熊本地震」のうちの、熊本県熊本地方の深さ約11kmを震源とするマグニチュード6.5の地震が発生し、熊本県(益城町)で最大震度7を観測した。
本事故は、「平成28年(2016年)熊本地震」のうちの、平成28年4月14日21時26分ごろ発生した地震の地震動を受けたため、列車が脱線したものと考えられる。
脱線に至る過程については、地盤の振動増幅により、事故現場付近の構造物直下に線路直角方向の大きな振動が加わったことに加え、構造物において車両にローリングを生じさせやすい振動数帯の左右の揺れを増幅したことにより、列車の各車両が左右に大きく揺れて左又は右車輪のフランジがレール上に乗るなどして、多数の輪軸がほぼ同時期に脱線したものと考えられる。
再発防止策 高速で運転される新幹線列車は、一たび脱線事故が発生した際は大きな被害となるおそれがあることから、安全性の確保は最大限図られるべきである。新幹線を運行する事業者においては、これまでに、構造物の耐震補強や対震列車防御システムの整備などの対震対策及びそれらの対策によって防ぎきれない場合を想定した脱線・逸脱防止対策により、地震時の走行安全性と被害軽減を向上させる取組が進められてきたところである。
同社においても、脱線・逸脱防止対策を更に推進していく必要がある。
また、脱線・逸脱防止対策の推進に当たっては、今回の事象を踏まえ、地震発生リスク、様々な条件から推測される脱線発生リスク、脱線後の走行によって生じる被害の大きさ等を考慮して脱線・逸脱防止対策の整備計画の検討を行い、実施していくことが重要である。
さらに、脱線が発生した後も逸脱防止対策の機能が損なわれることがないように、車輪が枠型スラブ穴部の前面壁に衝撃した場合に生じる衝撃力について評価し、必要に応じて安全性を向上させるための研究開発を行うことが望まれる。

参考資料1(JR九州・九州新幹線)

番号 事業者、事故種類、発生日時・場所 事故概要 原   因
2 ○名古屋鉄道株式会社
○列車脱線事故(踏切障害に伴うもの)
○H29.7.9(日)20時54分ごろ
○愛知県豊田市
○三河線 猿投駅構内(単線)
平戸橋1号踏切道(第1種踏切道:遮断機及び警報機あり)
知立駅発猿投駅行きの下り第2063列車は、平戸橋駅を定刻(20時53分)に出発した。列車の運転士は、速度約45km/hで惰行運転中、平戸橋1号踏切道に差し掛かる直前に右側から同踏切道内に進入してきた普通自動車を認め、直ちに非常ブレーキを使用したが、列車は同自動車と衝突した。
列車は、先頭車両前台車第2軸が左へ脱線し、その後の走行により、復線した。
この事故により、同自動車の運転者が軽傷を負った。
本事故は、列車の接近により平戸橋1号踏切道の踏切遮断機及び踏切警報機が動作している状況において、普通自動車の運転者が同踏切道の警報の動作に気付かず、一時停止をしないまま列車の通過直前に同踏切道内に進入したことにより、列車が自動車と衝突して脱線したものと考えられる。
普通自動車の運転者が同踏切道の警報の動作に気付かずに同踏切道内に進入したことについては、カーナビゲーションの地図表示を操作しながら運転していたこと及び自動車の窓を閉めきった状態で音楽を大きな音量で聞いていたことが関与したものと考えられる。

参考資料2(名古屋鉄道・三河線)

番号 事業者、事故種類、発生日時・場所 事故概要 原   因
3 ○とさでん交通株式会社
○保安方式違反(軌道事故等報告規則第2条第1号の「保安方式の取扱いを完了しないうちに、当該保安区間を運転する目的で本線路を運転する車両が走行した事態」に係る鉄道重大インシデント)
○H28.11.17(木)9時01分ごろ
○高知県高知市
伊野線 朝倉停留場~八代停留場間(単線)
はりまや橋停留場起点5k576m付近
文珠通停留場発伊野停留場行き1両編成の第317車両の運転士は、単線区間の朝倉停留場~八代停留場間にて通票式を施行中、朝倉停留場において、団体旅客整理のために同停留場に派遣されていた係員から旅客の乗降が完了したことを示す合図を受け、同停留場を出発した。
その後、同運転士は、約85m進行したところで通票がないことに気付き、減速していたところ、前方約90mに伊野停留場発文珠通停留場行き1両編成の第316車両を認め、第317車両を停止させた。
一方、第316車両の運転士は、朝倉神社前停留場~朝倉駅前停留場間を走行中、前方約60mに停止している第317車両を認め、第316車両を朝倉駅前停留場の約5m手前に停止させた。
第317車両には乗客約70名及び運転士1名が、第316車両には乗客約25名及び運転士1名が乗車していたが、負傷者はいなかった。
本重大インシデントは、通票式を施行中の単線区間である朝倉停留場~八代停留場間において、第317車両の運転士が通票を携帯せずに車両を朝倉停留場から出発させたため、第316車両が存在している当該保安区間を走行したことにより発生したものと推定される。
運転士が通票を携帯せずに車両を出発させたことについては、出発前の通票の授受を失念し、通票の携帯の確認をしていなかったことによるものと推定される。
通票の携帯を確認せずに出発させたことについては、運転士が、旅客整理係員からの乗降完了合図を受けた際、合図があれば車両を出発させてもよいと短絡的に判断を行った可能性があると考えられる。
このことについては、同社の運転心得に、運転士自身が旅客の乗降の終了及び保安方式など車両の出発に支障のないことを確かめてから運転を開始することと定められていることの認識が希薄になっていたことが関与したと考えられる。
再発防止のために望まれる事項 (1)本重大インシデントは、車両出発時において、通票式を施行する上で運転士の最も重要な取扱いである通票の携帯の確認をしていなかったことによるものと推定される。また、運転士は通票を携帯していないことに気付いた時点で直ちに車両を停止させる手配をとらなかったものと考えられる。
このことから、同社は、停留場到着から出発までの一連の動作が適切に励行されているかを再確認し、運転士に対して、取扱いを誤ったことにより発生するおそれのある危険な事象があることを認識させ、平常時とイベント時の運転関連規程の適用関係を含めて規定の趣旨を十分に理解させた上で、規定を遵守させるとともに繰り返し教育を実施し、安全行動を浸透させることが必要である。
(2)同社では、平成22年5月にも本重大インシデントと同様に朝倉停留場において通票の授受をせずに保安区間を車両が走行した事態が発生していることから、(1)に記述したほか、次の①あるいは②について今後検討が必要と考えられる。
① 運転士相互間での通票の授受ではなく、駅長を行き違い停留場に配置し、通票の授受を行わせるなど通票の授受を確実に実施するための措置について検討する必要がある。 ② 同社の単線区間で常用する保安方式は、鏡川橋停留場~朝倉停留場間は、特殊単線自動閉そく式、朝倉停留場~伊野停留場間は、通票式を施行することとしており、朝倉停留場を境として種類を異にする保安方式を施行しているが、単線区間で常用する保安方式を特殊単線自動閉そく式に統一し、通票の授受の取扱いを廃止することについて検討することが望ましい。

参考資料3(とさでん交通・伊野線)