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運輸技術審議会答申「今後の鉄道技術行政のあり方について」(平成10年11月13日)

投稿日時:1998-11-13 00:00:38 (443ヒット)
	
今後の鉄道技術行政のあり方について
 
                   運輸技術審議会諮問第23号答申

                                               平成10年11月13日
                                               運輸技術審議会

 近年、鉄道を取り巻く経済社会環境は、大きく変化し、また、技術分野においても技術
革新が進展する中で、運輸技術審議会鉄道部会は平成9年12月19日、「今後の鉄道技
術行政のあり方について」諮問を受け、平成10年6月11日に中間整理が公表され、同
年11月13日に答申が出されたものである。
 今後は、技術基準については、同審議会鉄道部会の下に技術基準検討会が設置され、今
後1年程度を目途に原案策定の予定である。
 また、答申を基にした所要の法改正について検討される予定である。





[諮問第23号]

今後の鉄道技術行政のあり方について

[諮問理由]

  近年、鉄道システムを支える様々な技術分野で技術革新が進んでおり、我が国の鉄道は
大きく変化してきている。例えば、ハード面では、エレクトロニクス技術の活用により、
システムの高度化、ブラックボックス化が進展し、ソフト面でも、保守や運行管理手法の
近代化が図られている。このような技術の高度化は、システムとしての鉄道をより高度化
し、安全性や快適性の向上をもたらしたが、一方で、技術の伝承を困難なものとしたり、
高度な技術を導入できる鉄道とできない鉄道の二極分化を生じさせる等の新たな問題もも
たらしている。また、このような技術の進展にもかかわらず、重大な事故が今なお発生し
ている状況でもある。さらに、鉄道を取り巻く経営環境の変化に伴い、省力化、低コスト
化も極めて強く求められている。
 このような状況を受け、鉄道技術行政についても、旧来からの技術体系を前提に構築さ
れているしくみから、鉄道技術の変化を踏まえた新たなしくみへと変革していくことが求
められている。
 また、地球環境問題、高齢化社会への対応等、利用者のみならず国民全般からの要請も
ますます高度化、多様化しており、これらの問題への対応も喫緊の課題である。
 さらに、運輸省においては、経済社会環境の変化に対応して交通運輸における需給調整
規制廃止を行うこととしたところであり、この効果を最大限発揮するため、技術分野にお
いても、適切な対応が必要である。
  このように、鉄道技術行政を取り巻く環境が大きく変化している中にあって、さらなる
安全の確保、利便の増進、新たなニーズへの対応、規制緩和の一層の推進等の諸課題に対
処するため、今後の鉄道技術行政の基本的なあり方を明らかにする必要がある。





           委員名簿(敬称略)

部会長  
  松本 嘉司       東京理科大学理工学部教授

委 員    
  井口 雅一         東京大学名誉教授
  
 伊能 忠敏         金沢工業大学工学部教授

  漆原 美代子       環境デザイナー、随筆家

  栗原 啓一         小田急電鉄(株)常務取締役

  佐々木敏明         (財)鉄道技術総合研究所

  正田 英介         東京大学大学院工学系研究科教授

  吉本 堅一         東京大学大学院工学系研究科教授

特別委員  
  家田  仁         東京大学大学院工学系研究科教授

  今城  勝         愛知環状鉄道(株)専務取締役

  浦川道太郎         早稲田大学法学部教授

  河村 篤男         横浜国立大学工学部教授

  谷藤 克也         新潟大学工学部教授

  種村 直樹         レールウェイライター

  原山 清己         東日本旅客鉄道(株)専務取締役

  村本理恵子         専修大学経営学部助教授

  森地  茂         東京大学大学院工学系研究科教授
          











                              答申本文

                             目 次
はじめに

第1章  鉄道技術行政の基本方針
  Ⅰ 鉄道技術行政の役割と課題
  1 鉄道技術行政が果たしてきた役割
    2 鉄道技術を取り巻く環境変化と鉄道技術行政の課題
  Ⅱ 今後の鉄道技術行政の基本方針
  1 鉄道技術行政の基本方針
  2 鉄道技術行政が役割を果たすべき分野
  3 行政手法のあり方

第2章  鉄道技術行政の役割とそのあり方  
    1  安全の確保
  2  利便の確保
  3  環境への配慮
  4  都市と鉄道との調和
  5  構造に関する規格の統一

第3章
  Ⅰ  技術基準のあり方
 Ⅱ  事前規制のあり方
  1 事業者認定制度
  2  車両、部品等の事前承認制度
  3  環境への配慮のための制度
 Ⅲ 事後のチェックのあり方
  1  事後チェック充実の必要性
  2  監査のあり方
  3  事故等の調査・分析のあり方
 Ⅳ 利用者への安全性、利便性等に関する情報公開のあり方
 Ⅴ  安全性をさらに向上させるための施策
 Ⅵ  接続利便の向上等のための施策

第4章 将来に向けた期待と課題

おわりに










はじめに
 運輸技術審議会は、平成9年12月19日、運輸大臣から「今後の鉄道技術行政のあり
方について」諮問を受けた。鉄道部会に設置した検討会では、これについて13回にわた
る会議を開催するなど、精力的に調査審議を進めてきた。
 21世紀の到来を目前にして、鉄道を取り巻く経済社会環境は大きく変化しつつある。
また、鉄道システムを支える様々な技術分野で技術革新が進展している。鉄道は、これら
の変化に対応して、新たな時代にふさわしいものへと発展していくことが求められている
。
  本答申は、安全等を確保するため、国、鉄道事業者、利用者等がそれぞれ果たすべき責
務について検討を行ったうえで、鉄道技術行政のうち、特に早急な転換が求められている
技術的規制を中心に、そのあり方についてとりまとめたものである。


        第1章 鉄道技術行政の基本方針

Ⅰ 鉄道技術行政の役割と課題

 1 鉄道技術行政が果たしてきた役割
    国は、鉄道における安全確保、利便性の向上等のさまざまな要請を実現するため、
  技術分野においても所要の役割を果たしてきた。それは、技術基準の策定や許認可等
  による規制的なものと、経済的・技術的な支援とに分けることができる。
    鉄道の技術分野における規制制度は、明治時代に骨格がつくられ、その後、大きく
  変わることなく現在に至っている。その内容は、施設や車両の新設や改良の際の事前
  規制が中心であり、新規投資が多く、技術力の未熟な鉄道事業者が多かった時代には
    、安全確保に不可欠かつ効果的なものであった。また、自動列車停止装置(ATS)
    の設置等、重大事故の教訓をもとに技術基準を改善し、安全性の向上に貢献してきた
    。さらに、保守や運行管理についても監査等により安全性の確認を行ってきた。
   また、国は、鉄道整備に対する経済的支援、必要な技術的指導、情報提供等を行い
  、安全で快適な鉄道システムの構築、鉄道事業者の技術力向上等の成果をもたらして
  きた。

 2 鉄道技術を取り巻く環境変化と鉄道技術行政の課題

 (1)鉄道に対する国民の要請
     鉄道は事故の頻度が少ないため、安全性に対する国民の信頼は厚い。しかし、鉄
   道は日常的な交通機関であるため、国民の安全への関心は高く、常に高い水準の安
   全性が求められている。
    さらに、近年は、安定輸送の確保、移動制約者への配慮、環境への配慮等国民か
   らの要請は多様化、高度化している。これらの要請には、利用者と鉄道事業者との
   間で解決策を見い出すべき問題も多いが、国民からは、行政の役割を期待する声も
   強い。
    また、鉄道に関する情報のさらなる公開も求められている。

 (2)経済社会環境の変化に伴う行政手法の転換
     経済社会環境の変化に伴い、従来国が関与してきたものも、当事者の自己責任の
   もとに市場原理に委ねられるべきものは市場原理に委ね、国の関与も縮小すること
   が求められている。また、関与を行う場合の行政手法も、いわゆる事前規制型から
   事後チェック型へと転換が求められている。
    このため、鉄道の技術分野においても、国の関与を必要最小限とし、鉄道事業者
   の創意工夫を最大限活かすことにより、多様なサービスの提供、低コスト化等によ
   る鉄道事業の活性化が期待されている。

 (3)技術環境の変化に伴う対応
     技術革新等により、鉄道を取り巻く技術環境にさまざまな変化が生じている。例
   えば、あらかじめ工場で製作された汎用部品や、現場で分解できない部品の採用が
   進んだ結果、鉄道事業者の施工管理や保守方法が大きく変化している。国の規制も
   このような技術環境の変化に対応しなければならない。
     また、長年の経験の蓄積により技術力が向上するとともに、技術革新により安全
   性の高い設備の採用が可能となったことから、国の関与を縮小しても設備改良等を
   行える鉄道事業者が増加しており、このような鉄道事業者に対しては、従来の国の
   規制の役割は減少している。また、鉄道事業者からは、規制に対する負担軽減を求
   める声が多い。
    さらに、今後の設備投資の中心は、新線建設から、既存施設の維持・改良へと移
   行することが予想される。このため、従来の事前規制中心の手法では適切な対応が
   できなくなるおそれがある。

 (4)鉄道事業者の技術力格差の拡大
     かつて民鉄等と適用法令が異なった旧国鉄が分割・民営化し、規模の大きな鉄道
   事業者も、地方交通線の第三セクター化等により増加した規模の小さな鉄道事業者
   も、一律に鉄道事業法の適用を受けることとなった。このため、設計管理者制度を
   設け、技術力の差に対応した行政を行ってきているが、その後も鉄道事業者の技術
   力の格差はさらに拡大している。このため、さまざまな鉄道事業者の技術力に応じ
   た柔軟な行政手法の導入が求められている。

 (5)技術力の所在の変化
    鉄道の技術は、鉄道事業者だけでなく、メーカー、施工業者等が一体となって支
   えている。古くは、設計、施工から維持、管理までを鉄道事業者が統括してきたが
      、近年、外注化の進展により、メーカー等への技術的依存が進んでいる。特に規模
      の小さな鉄道事業者では、この傾向が強く、鉄道技術行政は、このような変化に適
      切に対応することが求められている。


Ⅱ 今後の鉄道技術行政の基本方針

  1 鉄道技術行政の基本方針

    安全の確保、利便の確保等国民からのさまざまな要請に応えるため、鉄道において
   技術分野が果たすべき役割は大きい。これらの要請は、本来、鉄道事業者が自らの
   責任で応えていくべきものである。しかし、国に一定の役割を求める声も強く、適
   切な対応をしなければならない。
     このため、今後の鉄道技術行政は、以下を基本方針として進めていくべきである
      。

   ① 安全の確保を第一の目的とする。
   ②  利便の確保等国民からの要請を的確に把握し、これらに効果的に応えることを
    目指す。
   ③  鉄道事業の活性化のため、鉄道事業者と利用者との間に市場原理が有効に機能
    する分野については、鉄道事業者の自己責任に委ね、それ以外の分野において役
    割を果たす。
   ④  行政手法は、①、②の目的の達成を前提に、③と同様の目的から、鉄道事業者
    等の自主性、主体的判断を尊重できるものとする。また、個々の鉄道に求められ
    る技術と、鉄道事業者が保有する技術力等のそれぞれに差があるため、これらに
    応じたものとする。
   ⑤  鉄道に対する国民の正しい理解と、これによる市場機能の活性化に資するとと
    もに、行政の透明性を確保するため、国及び鉄道事業者は積極的に情報を公開す
    る。
   ⑥ 技術や社会の変化に柔軟に対応する。

  2 鉄道技術行政が役割を果たすべき分野

     鉄道技術行政が役割を果たすべき分野は、以下のとおりとすべきである。
   ① 社会的に一定以上の水準の確保が求められる分野
     安全の確保等社会的に一定の水準の確保が求められる分野について、国は、必
    要な水準を確保するための役割を果たす。
   ② 市場原理が有効に機能しにくい分野
      鉄道には、例えば他に競合路線のない大都市線区の通勤輸送に見られるように
        、輸送シェアが高く他の交通機関との競合性が低い場合がある。また、競合性が
        高い場合であっても、安全の確保等の一部の分野については、提供される情報が
        十分でなかったり、その内容が専門的で利用者に理解しにくかったりすることか
        ら、利用者にとって交通機関の選択における判断材料となりにくい場合がある。
      このような理由により市場原理が機能しにくい分野については、利用者保護の
    観点から、国が、市場原理を有効に機能させるための環境を整備する。また、そ
    れでもなお市場原理が有効に機能しない分野においては、必要な水準を確保する
    ための役割を果たす。
   ③  鉄道事業者、利用者以外の第三者に影響が及ぶ分野
      鉄道はその事業運営を通じて、沿線住民等利用者以外の第三者に影響を与える
    ことがある。このような分野で生じる問題は、利用者と鉄 道事業者とにより形
    成させる市場の外に生じたものである。このため、市場原理のみによる解決は困
    難であり、国は、鉄道事業者自らが積極 的に影響を軽減するための環境を整備
    するとともに、鉄道事業者に対して、外部に与える影響を軽減させるための関与
    を行う。
   ④  全国的なルールの策定等
      道路との交差や公共施設との連携等に関する取決め等、個々の鉄道事業者が個
    別に取り組むことが困難な全国統一的なルールの策定等についても国が役割を果
    たす。

  3 行政手法のあり方

     鉄道技術行政の手法は、鉄道事業の活性化を図るため、鉄道事業者等の自主性、
   主体的判断を尊重できるものとする一方、国民からの要請を効果的に実現できるも
   のとしなければならない。このためには、許認可等の事前規制を最小限とすること
   により合理化するとともに、鉄道の運営状態を監視、評価し、その結果に基づき改
   善等を求める事後チェックを充実すべきである。
     具体的には、鉄道技術行政は以下のような手法によるべきである。
   ① 鉄道事業者への事前規制は、鉄道が社会的に求められる安全性等の水準を確保
    するために必要な最小限のものとする。このため、事前規制は、以下のとおりと
    する。
   (ア)鉄道が社会的に求められる安全性等の水準は、国が技術基準として示す。な
     お、この基準は、新技術の導入等に柔軟に対応できるものとする。
   (イ)一定の技術力を有する鉄道事業者が増加する一方、適切な支援と監督を必要
     とする鉄道事業者も多数存在することから、個々の施設等に対する事前規制は
          、鉄道事業者がその事業内容に対応した十分な技術力を備えているか否かに応
          じたものとする。
   ② 万一適切な鉄道運営が行われていない場合にその状況を是正するため、事後チ
    ェック型の行政手法を充実させる。
     このため、運営状態に関する情報の収集、鉄道事業者への立入検査、事故等の
    調査・分析等を充実させる。
   ③  利用者に対する情報公開により、利用者自らが鉄道の実情を的確に判断できる
    ような環境を整備する。また、鉄道事業者の自主的な安全性や利便性の向上を目
    指した取組みを促進するような施策を講じる。


    第2章 鉄道技術行政の役割とそのあり方


  鉄道技術行政は、鉄道事業者と利用者との間に市場原理が有効に機能する分野について
は、鉄道事業者の自己責任に委ね、それ以外の分野で役割を果たさなければならない。こ
のような役割を果たすべき分野のうち、国民に重大な関わりがあると考えられるものは、
安全の確保、利便の確保、環境への配慮等である。また、これらの分野における行政手法
も、安全等の確保を前提に、鉄道事業者の自主性、主体的判断を尊重できる方法としなけ
ればならない。
  具体的な分野ごとの鉄道技術行政が役割を果たす必要性とそのあり方は以下のとおりで
ある。

1 安全性の確保

  (必要性)
   安全は、国民の生命、身体及び財産にかかわる基本的な事項であること、鉄道は大量
 輸送機関であり、ひとたび事故が生じるとその被害は甚大となるおそれがあることから
  、一定以上の安全水準を常に確保することが社会的に求められる。
   また、鉄道の安全については、以下の理由から、市場原理が機能しにくい環境にある
  。
(ア)安全に関する情報は、その内容が専門的なため、利用者が十分に理解することは困
  難である。また、情報が利用者に十分に提供されている環境ではない。
(イ)安全への努力が短期的な経営評価に現れにくい。
(ウ)他の交通機関との競合性が低い場合がある。
    しかも、現在の我が国の鉄道においては、比較的事故の発生頻度が少ないことから、
  安全性の高低が必ずしも利用者の選択要因となっていない。したがって、国は安全の
  確保に対する社会の要請に応じた積極的な関与が求められている。

  (今後のあり方)
   安全は、鉄道事業の基本である。このため、新たな制度は、常にそれまでの安全性を
 維持し、向上させるものでなければならない。
   また、国の関与により確保すべき安全性の水準は、以下の事項を前提として考えるべ
 きである。
(ア)すべての人や物に及ぼし得る危険を、技術的実現性や経済性を踏まえ、可能な限り
  小さくすることを目標とする。また、実際の国の関与は、危険の程度や社会的影響度
  を勘案して、その程度や優先順位を決定する。
(イ)少なくとも一定水準の安全性を確保することは、鉄道事業者の責任である。また、
  さらに高いレベルの安全性の確保は、鉄道事業者が、そのための投資の費用と効果に
  ついて利用者の意見を踏まえつつ、適切な判断を行う。
(ウ)利用者等も、無謀な行動を慎む等安全の確保に相応の責任を果たす必要がある。ま
  た、鉄道事業者が安全を確保すべき対象は、利用者等の通常予見される行動形態を前
  提とする。
    このような事故を前提としつつ、現在の鉄道が置かれた技術的環境を踏まえると、
  今後の安全確保のための行政は、以下のような手法に転換していく必要がある。
(ア)鉄道の安全性を確実に一定水準以上とする一方で、鉄道事業者の自主性、主体的判
  断を尊重できるものとするため、新技術の導入等に柔軟に対応できる形で技術基準を
  策定するとともに、鉄道事業者がその事業内容に対応した十分な技術力を備えている
  か否かに応じ最小限の事前規制を行う。
(イ)(ア)により事前規制を緩和する一方で、維持・改良型の投資が中心となることも
  考慮し、事後チェック型の行政手法を充実させる。
(ウ)安全確保には、事故等の教訓を活かし、問題箇所に的を絞った効果的な対策を講じ
  ること等により、同種の事故を未然に防止することが重要である。このため、事故等
  の原因究明や同種事故の再発防止を目的とした調査・分析を積極的に行う。また、そ
  の知見を集積し、安全対策に反映させる。
(エ)このほか、安全確保に関する鉄道事業者の取組みを促す環境整備、十分な技術力の
  保有が困難な鉄道事業者への技術的支援等さまざまな施策を実施し、安全性の向上を
  図る。

2 利便の確保

 (必要性)
   利便性は、鉄道事業者と利用者とにより形成される市場の中で、鉄道事業者が自らの
 責任により利用者の要請に応えていくことが基本である。
   しかし鉄道の中には、他の交通機関との競合性が低く、市場原理が有効に機能しない
 場合がある。また、利便性が損なわれた際には多数の利用者が影響を受けるため、安定
 輸送の確保等社会的に一定以上の水準が求められるものがある。

 (今後のあり方)
   利便性に関する国の関与は、基本的には、事前規制による手法から、情報公開や各種
 の支援等を通じた鉄道事業者に対する誘導と、利用者の利便が損なわれていると認めら
 れる場合の事後的な是正による手法に転換すべきである。
  しかし、以下の項目については、利用者等に与える影響の大きさ等にかんがみ、所要
 の措置を講じる必要がある。

(1)安定輸送の確保

  (必要性)
    我が国の鉄道は、定時性に対する信頼の厚い大量輸送機関であることから、列車の
  運休や著しい遅延が及ぼす社会的影響が大きい。

  (今後のあり方)
    安定輸送を確保するためには、まず、施設等が輸送計画に対応した能力を有してい
  なければならない。これが満たされていない場合には、計画どおりの輸送が行えず、
  日常的に利用者の利便が阻害されるおそれがある。このため、国は技術基準の策定と
    、鉄道事業者がその事業内容に対応した十分な技術力を備えているか否かに応じた事
    前規制を行う必要がある。
    また、輸送の安定性をさらに向上させるとともに、ダイヤが乱れた場合の影響を最
  小限にするためには、悪天候への対応等正常なダイヤを確保するための予防措置や、
  正常なダイヤが確保できない際に一定の輸送を確保したり、ダイヤの早期回復を図っ
  たりするための措置、代替輸送や復旧予定に関する適切な情報を提供するための措置
    等を講じなければならない。
    これらについては、必要な費用と効果とのバランスをとる必要もあり、一定の水準
  を定めることは困難である。このため、利用者の意向を踏まえつつ、鉄道事業者が自
  らの責任でこれらの実現に向けて努力することが基本であり、国は、鉄道事業者がこ
  のような取組みを積極的に行うような環境を整備する必要がある。

(2)混雑の緩和と速達性の向上
  (必要性)
    混雑の緩和や速達性の向上は、鉄道事業の商品である輸送サービスの質そのもので
  あり、鉄道事業者が自らの判断により最善の努力を払うべきである。
    しかし、他に代替できる交通機関がない場合、著しい混雑や、輸送時間の増大は、
  これを利用せざるを得ない多くの利用者にとって大きな負担となっている。

  (今後のあり方)
    国の基本的な役割は、鉄道事業者が混雑の緩和や速達性の向上について積極的な取
  組みを行うための環境を整備することである。
   しかし、その混雑等の状況にかかわらず、利用者は当該路線を利用せざるを得ない
  場合もあることから、特に社会的影響の大きいものについては、国及び地方公共団体
  が、長期的な計画の策定や、財政支援を行う等の施策を検討していく必要がある。
    また、既存路線を有効に活用して混雑の緩和や速達性の向上を図るため、技術開発
  に積極的に取組む必要がある。

(3)移動制約者への配慮

  (必要性)
    移動制約者に配慮した公共的施設を整備は、高齢社会の到来や障害者の社会参加の
  観点から、不可欠なものになっている。
    このため、移動制約者が利用しやすい鉄道とすることが求められており、一定の水
  準を確保する必要がある。

  (今後のあり方)
    移動制約者への配慮が社会的に不可欠な現状にかんがみ、鉄道事業者に対し、他の
  公共的施設と同程度の配慮を義務化するとともに、鉄道事業者の積極的な取り組みを
  促すための施策を講じる必要がある。
   なお、移動制約者への配慮に要する費用は、これらの設備の多くはあらゆる利用者
  の利便性の向上にも資することから、利用者も負担すべきであるが、その福祉的意義
  から国や地方公共団体にも一定の負担を求めるべき合理性がある。このような観点か
  ら、障害者基本法や高齢社会対策基本法においても、鉄道事業者が努力するとともに
  国及び地方公共団体が必要な施策を講じなければならないこと等が規定されている。
  このため、鉄道事業者への義務付けに際しては、鉄道事業者、ひいては利用者に過度
  の負担が生じないよう配慮するとともに、移動制約者に配慮した設備の整備を促進す
  るため、財政支援のあり方について検討が必要である。
   また、駅の新設や大改良の機会をうまくとらえれば効率的な整備が可能であるが、
  既設駅の場合には、費用、空間等の制約が大きいことにも配慮しなければならない。

(4)他路線との接続利便の確保

  (必要性) 
   鉄道相互の接続利便、さらには、駅におけるバス等他の交通機関との接続利便の確
  保は、基本的には鉄道事業者をはじめとする関係者が努力すべき課題である。
    しかし、接続利便いついての鉄道事業者の意向は、利用者等の意向とは必ずしも一
  致しない場合もある。また、駅の構造が不適切な場合、多数の利用者が長期間不便を
  被ることになる。

  (今後のあり方)
   鉄道相互の接続利便の確保については、特に長期的な対応が必要な駅の整備につい
  て、駅や大改良の際に、鉄道事業者が接続利便の確保に向けた努力を行うよう国が環
  境を整備する必要がある。
   また、他の交通機関との接続利便についても、関係機関と連携を図りつつ、より一
  層の向上を目指した取組みが必要である。

(5)利用者利便のための共通化

  (必要性)
   例えば案内表示やカード等の出改札システムのように、鉄道事業者間あるいは他の
  交通機関や都市施設との間において共通化を図ることにより、利用者の利便性が大幅
  に向上するものがある。

  (今後のあり方)
   このような事柄については、利用者利便を確保するため、当事者による自主的な共
  通化が期待される。しかし、関係者間の意見調整が求められる場合や、自主的な取組
  みがない場合には、国が必要な調整や、仕様の提示、その普及について取組む必要が
  ある。
   なお、国が提示する仕様は、多くの利用者に普遍的に認知されたものを除き、強制
  的なものとすることは適当でない。

3 環境への配慮

 (必要性) 
  鉄道が外部の環境に与える影響は、鉄道事業者と利用者とにより形成される市場の外
 の問題であり、市場原理による解決は困難である。また、周辺住民等への影響が大きい
 ことから、影響を一定以下に抑えることが社会的に求められる。さらに地球環境問題に
 ついては、社会全体として国際的義務を履行しなければならない。

 (今後のあり方)
(1)周辺の環境への配慮
   環境影響評価法の対象事業については、環境アセスメントの結果を工事に関する許
  認可等に反映させることが国に求められている。しかし、現行の許認可等では十分な
  対応ができないため、これが可能となるよう必要な措置を講じる必要がある。
   また、環境アセスメントの対象とならない建設・改良についても、問題が生じるお
  それが大きく、かつ客観的な基準が示されている騒音については、国が事前に関与で
  きるよう、技術基準の策定と事前確認に必要な措置を講じる必要がある。
   さらに、騒音等鉄道の周辺環境への影響を低減させるための技術開発に積極的に取
  組む必要がある。

(2)地球環境問題への対応
   地球環境問題に対しては、旅客や貨物の鉄道利用を促進し、自動車等からの転移を
  図ること、及びエネルギー効率の良い車両の導入等により鉄道が環境に及ぼす影響を
  より軽減させることの二つの観点から取組まなけらばならない。
    このため、国も、これらの観点から必要な経済的、技術的な支援や誘導を行うとと
  もに、地球環境問題への鉄道事業者の自主努力を促すための環境を整備する必要があ
  る。
   さらに、リサイクル技術等鉄道の環境負荷を軽減するための技術開発に積極的に取
  組む必要がある。

4 鉄道と都市との調和

 (必要性)
   鉄道は都市が機能するための重要な施設の一つである一方、線状に連続するため、都
 市構造に少なからず影響を与える。また、鉄道の構造物は、一度完成すると大きな改良
 は困難である。このため、鉄道の整備・改良の計画と周辺地域の都市政策との調和が重
 要である。また、そのために必要な施設改良等においては、鉄道と都市との費用負担等
 についての役割分担も重要な課題となっている。
 

 (今後のあり方)
   この問題については、基本的には鉄道と都市の当事者間で調整すべき問題である。し
 かし、二者のみでは解決できない場合に、国が調整を図っていく必要がある。
  また、関係省庁と協力しつつ都市と調和のとれた鉄道の整備・改良が行われるよう、
 国が調整を行なう必要がある。

5 構造に関する規格の統一

 (必要性) 
   これまで、国の技術基準の中で、軌間、建築限界、標準電圧等鉄道の構造に関する規
 格が定められてきた。これらは、相互直通運転を容易にする等ネットワークの形成に貢
 献するとともに、部品の共通化によるコスト低減、品質の安定等にも貢献してきた。
   しかし、既に多くの鉄道が存在している現状にあっては、直通運転に必要な規格に後
 発の鉄道事業者が合わせざるを得ないことから、直通運転の容易性を確保するために強
 い規制を行う必要性は、乏しくなっている。また、コスト低減等の面からも、既に一定
 の規格が定着しているため、規制の効果は薄らいでいる。

 (今後のあり方)
  構造に関する規格は、上述のとおり国による規制の必要性が乏しくなっているうえ、
 規制を廃止すれば多様な鉄道サービスの展開が可能となるため、今後は国の技術基準に
 位置付けず、必要に応じ、強制力のない民間の団体規格等へ移行していくことが適当で
 ある。
   ただし、構造に関する規格の中には、利用者が鉄道に期待する高速性、大量性という
 特性を発揮するため、現在も大きな役割を果たしているものがある。このため、鉄道が
 発揮すべき特性が失われないようにするための措置を検討する必要がある。


        第3章 主要な施策のあり方

Ⅰ 技術基準のあり方

(1)技術基準の性能規定化
   技術的な面から、鉄道事業者の自主性、主体的判断の幅を拡大するためには、法令に
  基づく技術基準(以下「省令等」という。)の技術的な自由度を拡大しなければなら
  ない。
    現在の省令等は、その多くが仕様や規格を具体的に示した、いわゆる仕様規定とな
  っている。これは、具体的な基準が明示されているため、技術力にかかわりなく同一
  の判断を行うことが可能であるが、新技術や、個別事情への柔軟な対応には欠ける。
    この問題点を改善し、鉄道事業者の技術的自由度を高めるため、省令等は、原則と
  して、備えるべき性能を規定した、いわゆる性能規定とする必要がある。なお、その
  規定は、体系的に、かつできる限り具体的な性能要件を示したものとすることが適当
  である。
    一方、省令等の性能規定化により、高度な技術的判断ができない鉄道事業者におい
  て具体的な判断が困難となったり、許認可等の審査に際しての判断基準があいまいに
  なったりするおそれがある。このため、性能規定化された省令等の解釈を、強制力を
  持たない形で具体化、数値化して明示しておく必要がある。(以下、この基準を「解
  釈基準」という。)
    また、鉄道事業者は、省令等に適合する範囲内で、個々の鉄道事業者の実情を反映
  した詳細な技術基準(以下、「実施基準」という。)を策定し、これに基づき施設及
  び車両の設計や運用を行う必要がある。
   この結果、鉄道事業者は、省令等で示される社会的水準を確保しつつ、自らの責任
  で、新技術の導入や線区の個別事情を反映させることができるようになる。また、高
  度な技術的判断が困難な鉄道事業者においても、解釈基準を参考に実施基準を策定す
  ることができ、社会的に求められる安全性等の水準を満たした鉄道運営を容易に行う
  ことが可能となる。

(2)技術基準に関する手続きのあり方
    実施基準については、以下の理由から、その策定又は変更に際し、事前に国にその
  内容を届出るようにする必要がある。
 (ア)解釈基準によらない実施基準については、安全確保等の観点から、国がその内容
   を事前に把握すべきである。なお、これにより、実施基準が解釈基準と異なる場合
      、国は、必要に応じ、安全の確保等がなされているかどうかについて鉄道事業者に
      説明を求めることが可能となる。
 (イ)国が実施基準の内容を把握することにより、解釈基準にない新技術等を速やかに
   解釈基準に反映させ、多くの鉄道事業者に普及させることが可能となる。
 (ウ)実施基準をあらかじめ把握しておくことによって、個別の手続きや事後チェック
   を効率的かつ迅速に行うことが可能となる。
    なお、従来、省令等の規定と異なることを行おうとする場合には、その都度国の許
   可が必要であった。しかし今後は、省令等の性能規定化に 伴い、当該手続きは原
   則として不要になる。これにより、新技術や個別事情への柔軟な対応が、効率的か
   つ迅速に行えるようになる。
     また、鉄道事業者が解釈基準によらないものを導入しようとする場合に、必要に
   応じて技術的支援が行えるような方策を整える必要がある。

 (3)技術基準の内容
    国が役割を果たすべき内容を踏まえ、省令等に盛り込むべき事項は、社会的に求め
  られる一定の水準を示す必要がある最小限のものとすべきである。
    具体的には、以下の事項を必要最小限の事項として定めることが適当である。
 (ア)安全の確保に関する事項
 (イ)計画した輸送の確保に関する事項
 (ウ)移動制約者への配慮に関する事項(内容は、他の公共施設における規定と同程度
   の義務化とする。)
 (エ)環境への配慮に関する事項

   なお、現在の国の技術基準に定められている構造に関する規格は廃止することとな
  るが、これに伴い、第2章5に掲げた措置を講じる必要がある。

Ⅱ 事前規制のあり方

  1 事業者認定制度

(1)技術力に応じた事前規制制度導入の必要性
    鉄道事業の活性化を促進し、あわせて鉄道事業者の負担軽減を図るためには、個々
  の施設整備等に対する事前規制は、鉄道が求められる安全性等の社会的水準を確保す
  るために必要となるものに限らなければならない。また、十分な技術力の保有により
  国の関与を縮小しても支障のない鉄道事業者が増加する一方、適切な支援と監督を必
  要とする鉄道事業者も多数存在することから、鉄道事業者がその事業内容に対応した
  十分な技術力を備えているか否かに応じた事前規制を行わなければならない。
    このため、現行の事前規制制度に加え、以下のような制度(以下「認定制度」とい
  う。)を新たに設けるべきである。
 (ア)鉄道事業者の申請によりその技術力を国が事前に評価し、一定の基準を満たした
   技術力を有する場合にはその鉄道事業者を認定する。(認定を受けた鉄道事業者を
   以下「認定事業者」という。)
 (イ)認定事業者が受ける国の事前規制は、その技術力に応じて必要最小限のものとす
   る。
     なお、このような制度を適用しても従前どおりの安全性等が確保されるようにし
   なければならない。このためには、国の事前規制を大幅に緩和しても、自らの責任
   により安全性等が確保できるよう、国が必要な技術基準の整備と適切な事後チェッ
   クを行う必要がある。

(2)認定の対象とすべき業務の範囲
    鉄道において、安全等を確保するためには、(ア)施設及び車両を適切に設計し完
  成させるとともに、適切に運行計画を作成すること、(イ)適切な保守及び運行を行
  うこと、を確実に実施しなければならない。
    これまで国は、主として、(ア)については許認可等により事前に、(イ)につい
  ては保安監査等により事後に、その適切性の確認を行ってきている。
    認定制度は、現在の事前規制を対象に導入するものであることから、事前に認定す
  る業務の範囲は、(ア)の分野に限られる。(以下、(ア)の範囲の業務を「認定業
  務」という。)
    なお、(ア)の業務と(イ)の業務は密接な関連があるが、それぞれの遂行能力は
  個別に評価できることから、認定業務の遂行に必要な技術力を(ア)の業務の範囲の
  みで評価しても問題は生じない。

(3)認定の方法
    鉄道の安全等を確保するためには、鉄道を構成する施設、車両が相互に整合のとれ
  た構造及び機能を有し、これらが適切に運用されなければならない。したがって、認
  定業務を確実に遂行するためには、施設、車両等についての総合的な技術力が要求さ
  れる。
    認定業務を確実に遂行するために必要な技術力(以下「認定技術力」という。)の
  評価方法は、個人の技術力を資格等により評価する方法と、鉄道事業者の組織のうち
  認定業務を行う部分(以下「認定組織」という。)が有する技術力を評価する方法が
  ある。
   前者の場合、個人の評価は客観的に行うことが可能であるが、認定技術力は総合的
  な技術力が要求されることから、個人の技術力のみで評価することは困難である。こ
  のため、組織体制、実施に関する規定等を確認することで認定組織の業務遂行能力を
  評価するとともに、組織内に資格等を有する個人が配置されていることを確認するこ
  とで、認定組織の技術水準を評価することにより、認定技術力を評価することが適当
  である。

(4)認定技術力の要素
    国の事前規制を大幅に緩和するためには、認定事業者は、自らの責任において、認
  定業務を総合的な技術力のもと、確実に遂行しなければならない。このため、認定技
  術力は、以下の要素から構成されると考えるべきである。
 (ア)システムとしての設計等を行い得る技術力
    土木、電気、車両及び運転の各技術分野に一定の技術力を有するとともに、個別の
   技術分野だけで判断を行うのではなく、相互の連携と調整により、鉄道全体をシス
   テムとして判断できる体制が整っていること。
 (イ)業務の確実性
    技術者個人の資質に左右されることなく、組織として確実に認定業務を遂行するこ
   とができる体制が整っていること。
 (ウ)責任体制の確立
    鉄道事業者自らの責任において、安全等の確保に積極的に取り組む体制が整ってい
   ること。

    なお、これらを具体的に審査するためには、例えば、業務に関する職務権限及び職
  務責任が明確にされているか、人員が適切に配置されているか、一定の資格等を有す
  る者が各技術分野に配置されているか、調整の方法等認定業務の実施方法が明確にさ
  れているか、内部監査体制が整備されているか等について確認することが適当である
  。
    また認定技術力は、鉄道の種類、運行形態、事業規模等により異なると考えられる
  ため、審査はこれらに応じて行うことが適当である。

(5)認定事業者に対する国の事前規制のあり方
    認定事業者は、技術基準において構造等の基準が明確に示されている事項について
  は、従来国が事前規制により行ってきた確認行為を自ら行い、その結果に対して自ら
  が責任を負うことにより、適切に実施することが可能である。
    しかし、経済・社会活動に多大な影響を及ぼすおそれのある事項については、鉄道
  事業者の判断だけでなく、沿線地域等の立場も踏まえて国が適切性の確認を行わなけ
  ればならない。
    また、安全に関しては、その水準をいかにすべきかについて、技術基準に明示する
  ことが困難である。このため、安全性の水準を決定する基本的事項について、鉄道事
  業者の判断だけでなく、利用者等の立場から、個別にその適切性を、国が確認しなけ
  ればならない。
  したがって、以下の事項については国が事前に確認することが必要である。
 (ア)環境への配慮、地域計画等各種計画との整合等の観点から重要である線路の位置
   ・構造形式等に関する基本的事項
 (イ)運転保安、踏切保安等安全上極めて重要なもののうち、当該設備の設置の有無、
   種類等の安全性の水準を決定する基本的事項
    また、このほか、他の法令から鉄道事業法における事前規制が求められているもの
  や、他の法令の事前規制との整合を図る必要のあるものについては、事前規制を存続
  する必要がある。

(6)認定事業者に対する事後チェック
  ①  認定の更新
    鉄道事業者の技術力は、事業環境の変化、時間の経過とともに変化する可能性があ
  るため、一定の期間ごとに、認定を更新する必要がある。
    更新の期間は他の類似の例を参考に5年程度とし、更新時には国が立入検査を行い
  、過去において認定業務が適切に行われていたか否かを確認することが適当である。

  ② 認定の取消等
    認定事業者が認定の基準に適合しなくなった場合又は認定業務が適切に行われてい
  なかった場合には、当該認定の全部若しくは一部の停止又は取消しを行えるようにす
  る必要がある。

  ③ 他の事後チェック制度との関係
   認定事業者においても、その他の鉄道事業者と同様に監査を行う必要があるが、こ
  のうち定期的に実施する監査については、①の観点を除いて実施することが適当であ
  る。

(7)その他認定制度の導入に際し配慮すべき事項
  ① 特定の分野に十分な技術力を有する鉄道事業者への配慮
    十分な技術力を有する分野が一部に限られる鉄道事業者は、総合的な技術力を有す
  るという視点からは認定事業者とは認められない。しかし、このような鉄道事業者も
    、当該技術分野においては自らの責任と能力で一定の判断が可能であるため、その技
    術力に応じた事前規制とする必要がある。

  ②  関連する鉄道事業者との調整
   鉄道は、施設や車両と、それらの運用によりシステムとして機能していることから
    、安全等の確保には、これらを管理する関係者が相互に連携しつつ必要な調整を確実
  に行わなければならない。このため、同一路線上で複数の鉄道事業者が列車を運行す
  る場合などは、当事者間で必要な調整を十分に行うことが重要である。
    認定制度の導入に際しては、認定業務について、このような関連する鉄道事業者間
  の調整を確実に図ることができるようにする必要がある。

 2 車両、部品等の事前承認制度

 (1)車両、部品等の事前承認制度の必要性
     要員の少ない鉄道事業者にとって、許認可等の手続きは、大きな負担となってい
   る。
     一方、このような鉄道事業者が導入する車両等の多くは、メーカー等が基本的な
   設計を行った標準型式のものを基礎とする場合が多い。
    現行の鉄道事業法においては、例えば、同じ車両であっても異なる鉄道事業者が
   これを導入しようとする場合には、それぞれの鉄道事業者が手続きを行うこととさ
   れている。
    したがって、仕様が統一されている部分については、事前にメーカー等が承認を
   受けることにより、その部分について、鉄道事業者の許認可等における申請書類等
   を省略し、負担を軽減することが可能である。
     このため、主に小規模な鉄道事業者の負担軽減を目的に、標準的な車両、部品等
   (以下「標準部品等」という。)を対象として、メーカー等の申請による事前承認
   制度を導入すべきである。

 (2)車両、部品等の事前承認制度のあり方
     車両、部品等の事前承認制度は、以下のとおりとすることが適当である。
  (ア)メーカー等は、国に対し、事前承認を取得するため、標準部品等の仕様及び使
    用条件を申請する。
  (イ)国は、標準部品等が、使用条件のもとで技術基準に適合していれば、これを承
    認し、その内容(仕様及び使用条件)を型式番号として公表する。
  (ウ)事前承認された標準部品等を鉄道事業者が使用する場合には、鉄道事業法の手
    続において、これの型式番号を記せば足りることとする。

 3 環境への配慮のための制度

    環境への配慮については、従来の鉄道事業法における事前規制では、法令上、特段
  の審査を行う旨の規定はなされていない。しかしながら、環境影響評価法の施行によ
  り、個別の事業規制法において環境への配慮の観点からの審査が必要とされることと
  なり、鉄道事業法の事前規制においても、これらの審査を環境影響評価法の施行と連
  携して行っていくこととなった。
    このため、環境アセスメント対象事業においては、鉄道事業法の工事施行認可等に
  際し、環境への配慮事項について審査を行い、環境アセスメントの結果が配慮されて
  いるか否かを確認することが適当である。
    また、環境アセスメント対象事業以外の建設、改良についても、環境庁により一定
  の指針が示されている騒音を対象として、指針に適合させるために必要な環境への配
  慮事項について審査を行うことが適当である。


Ⅲ 事後チェックのあり方

  1 事後チェック充実の必要性

    鉄道の安全性等を確保するためには、鉄道事業者自らが努力することは当然である
  が、国も、事前規制だけでなく、立入検査等により安全等の確認を行い、万一鉄道事
  業者が不適切な事業運営を行っている場合又は事故等を起こした場合には、是正のた
  めの措置を講じなければならない。
    このため、従来から国は、保安監査として職員が現地に立ち入り、必要な監視、指
  導等を行ってきている。また、事故等の発生に際しては、鉄道事業者から必要な報告
  を受けるとともに、特に重大な事故の場合は、直接調査を行ってきている。
    近年の事項等の発生状況を見ると、事前規制の対象ではない日常の運行、保守等に
  関連するものが多い。また、今後の設備投資は既存施設の維持・改良に移行すること
  が予想される。さらに、事前規制も大幅に緩和されることから、安全等の確保のため
  には、監査による事後チェックが従来にも増して重要となる。
    また、効果的な安全対策を講じるには、発生した個々の事故等の原因究明を行い、
  同種事故の再発防止に取組むことが重要である。このためには、事故等の調査・分析
  を通じ、事故等を教訓として安全対策に活かせるためのしくみの構築が不可欠である
    。
    さらに近年、利用者等からの要請は安全確保に留まらず多様化しており、これらの
  要請に対応する必要も生じている。
   したがって、監査及び事故等の調査・分析による事後チェックを充実させるべきで
  ある。

 2 監査のあり方

 (1)効果的、機動的な監査の実施
     効果的、機動的な監査を実施するためには、その頻度及び内容は、鉄道事業者の
   事故の発生状況、運行の状況等を勘案して定めなければならない。したがって、定
   常的に鉄道事業者ごとにこれらの状況を把握し、これをもとに監査の実施計画を策
   定する必要がある。
    また、このためには、鉄道事業者から、定期的に事業の実施状況等についての報
   告を受け、この情報を分析する必要がある。

 (2)利便の確保等に対する技術的な観点からの監査
     利用者等からの多様な要請に対応するため、今後は、安全の確保のみではなく、
   利便の確保、環境への配慮等に関わる事項についても監査の対象とし、その状況を
   確認していくべきである。

 (3)監査結果の情報公開
     利用者等への適切な情報提供や、鉄道事業者の安全等の取組みを促すためには、
   監査結果の情報を積極的に公開していくべきである。
     なお、情報公開に際しては、鉄道事業者間に不公平が生じたり、利用者等にいた
   ずらに不安感を与えたりしないような方法とする必要がある。

 (4)監査における鉄道事業者の負担軽減
     定常的な鉄道事業者の状況把握により、監査時に求める資料は当然のことながら
   必要最小限とし、監査における鉄道事業者の負担軽減を図るべきである。

 3 事故等の調査・分析のあり方

 (1)国により事故等の調査・分析の必要性
    より安全な鉄道を目指すためには、事故等の教訓を活かし、問題の所在に的を絞っ
   た効果的な対策を講じること等により、同種の事故を未然に防止することが極めて
   重要である。
     このためには、事故の原因究明及び同種事故の再発防止を目的とした事故等の調
   査・分析を行うとともに、その知見を集積し、安全対策に反映させていかなければ
   ならない。
     この場合、事故等の原因の究明等は、一義的には鉄道事業者が行うものであるが
      、事故等の当事者という立場を離れ、公平・中立の立場から、国が事故等の調査・
      分析を行うとともに、鉄道事業者の事故等の調査・分析結果を的確に評価すること
      が必要である。
     したがって、今後、国が事故調査等を行うための体制を整備する必要があり、以
   下に示す留意事項を踏まえつつ、所要の検討を進めていく必要がある。

 (2)国が事故等の調査・分析を行う際の留意事項
   ①  事故等の調査・分析の対象範囲
     国が行う事故等の調査・分析は、鉄道事業者が軽微な事故等を含め広範囲に調査
    等を行うことを前提とすれば、発生した事故等の被害の大きさ等を考慮しながら
    重点的に行うべきである。
      一方、事故等には至らないが、安全に影響を及ぼす、又は及ぼすおそれのある
    事象(以下「インシデント」という。)が多く存在していることも指摘されてい
    る。このようなインシデントを分析し、事故等の未然防止に役立てることが、事
    故等の防止のために有効である。このため、インシデントについても鉄道事業者
    だけではなく、国も事故等の防止のために重要なものについて、調査・分析を行
    う必要がある。
      また、統計的手法による調査・分析を行い、有効な対策を検討する必要もある
    。

   ②  事故等の報告
      事故等について、国が必要な調査・分析を行うとともに、鉄道事業者の調査・
    分析結果の評価を行うためには、鉄道事業者からの適切な報告が不可欠である。
     また、インシデントについても、国が分析等を行うためには、鉄道事業者によ
    る的確な把握と、これを国に報告するためのしくみを整備しておかなければなら
    ない。
      したがって、鉄道事業者から国への事故等の報告は、分析等を行うための基礎
    資料として、必要な情報を的確かつ効率的に把握できるようなものとする必要が
    ある。

   ③ 事故等の調査・分析の内容等
     事故等の調査・分析については、原因究明、再発防止対策のほか、乗客等の被害
    軽減方策の調査も行うことが望ましい。
     なお、迅速、的確な原因究明には、客観的な事実の裏付けが不可欠であるため
        、列車の運行状況を記録し、これを調査・分析に使用できるようにすることが有
        効である。

   ④  事故等の調査・分析結果の反映
     事故等の調査・分析結果は、当該鉄道事業者の安全対策に反映するだけではなく
        、鉄道事業者等で共有し、他の鉄道事業者における事故等の未然防止対策に反映
         することが重要である。
     このため、国が行った調査・分析結果だけではなく、鉄道事業者が行った調査
    ・分析結果についても鉄道事業者間で情報の共有化や知見の集積が図られるよう
    にする必要がある。
     また、調査・分析結果を、国の技術基準や安全性向上のための施策に反映させ
    ていく必要もある。

   ⑤ 事故等の情報公開
     鉄道事業者から国に提出された報告や国の調査・分析結果については、利用者
    等が鉄道の実態をより正確に把握できるようにするため、適切な情報公開を行っ
    ていく必要がある。

   ⑥ 事故等の幅広い調査・分析
     事故等の調査・分析をさらに深度化するためには、大学や民間の研究機関に対
    し、事故等に関する技術的情報を公開し、調査・分析や安全対策の提言が幅広く
    行われるようにする必要がある。


Ⅳ 利用者等への安全性、利便性等に関する情報公開のあり方

(1)利用者等への安全性、利便性等に関する情報公開の必要性
     以下の理由から、安全性、利便性等に関する情報を利用者等に公開していくことが
    必要である。
 (ア)利用者が適切に鉄道を選択できるようにするための環境整備
    鉄道事業について、鉄道事業者の自己責任を原則としたものとするためには、市場
   原理が有効に働く環境を整備していくことが重要である。しかし、他の交通機関と
   競合性の高い路線であっても、情報の公開が十分でなかったり、専門的な情報が理
   解されにくかったりすることにより、適切な選択が困難な場合がある。
     このため、利用者が、安全性、利便性等に関する十分な情報をもとに鉄道を選択
   できるような環境を整備し、市場原理をより有効に機能させるようにする必要があ
   る。
 (イ)利用者等が適切に鉄道の実態を把握できるための環境整備
   国や鉄道事業者が積極的に説明を行い、利用者等が日頃から鉄道の実態を把握でき
   るような環境を整備することにより、鉄道を社会的に評価することが可能となる。
   これにより、安全性、利便性等の向上に対する鉄道事業者の自律的な取組みが期待
   される。

(2)情報公開の主体
    鉄道の安全性等に関する情報の大部分は、鉄道事業者が保有しており、利用者に、
  自らの状況を説明すべきであると考えられる。このため、安全性、利便性等に関する
  個々の情報は、それぞれの鉄道事業者が自ら公開することを基本とすべきである。
    ただし、鉄道事業者が個別に情報を公開しただけでは、鉄道事業者間の比較を行う
  ことができない。このため、国が、情報を収集し、利用者等が比較しやすい情報とし
  て取りまとめるとともに、利用者等の判断を助けるための分析を行い、これらを公表
  する必要がある。したがって、このような情報を公開するため、鉄道事業者から必要
  な情報について報告を受けるしくみを合わせて整備する必要がある。

(3)公開すべき情報の内容や公開方法
    安全の確保、利便の確保、環境への配慮等第2章で示した国が役割を果たすべき分
  野の多くは、利用者等にその実績や将来構想の情報を公開することにより、鉄道事業
  者の自主努力が促される。
   したがって、これらの情報については、鉄道事業者及び国が積極的に公開していく
  必要がある。なお、これらの情報の中には、鉄道事業者にとってのマイナス情報も多
  く含まれるが、国は、このような情報の提供を促すための方策を検討していく必要が
  ある。
    また、その公開方法は多様なものが存在し、さらに情報通信技術の発達により新し
  い公開方法も出現すると考えられる。したがって、これらの動向も踏まえつつ、適切
  な公開方法を選択することにより、より効果的な情報公開を目指すべきである。

(4)利用者意見の反映
    利用者の意見を踏まえた鉄道運営が行われるよう、鉄道事業者は、利用者が意見を
  述べやすい環境や、提出された意見が適切に反映される環境を整備すべきである。ま
  た、広く利用者の意見を把握するため、積極的に鉄道事業者が調査を行うことも有効
  である。


Ⅴ 安全性をさらに向上させるための施策

(1)十分な技術力を保有することが困難な鉄道事業者への技術的支援
    小規模な鉄道事業者の中には、わずかな技術者で鉄道事業の運営を行っていること
  に加え、技術者の高齢化、後継者難により、今後、独力で高度な技術的判断を行うこ
  とが困難となるおそれのあるものも見受けられる。また、事業運営も厳しく、新たな
  投資だけでなく、人材の確保・育成に十分な費用をかけられない鉄道事業者も多い。
    このような鉄道事業者が今後とも安定的に鉄道運営が行えるよう、さまざまな観点
  から技術的支援を行っていかなければならない。この観点から、車両、部品等の事前
  承認制度に加え、以下に掲げる施策を講じる必要がある。

  ①  保守等の管理委託についての環境整備
    車両、施設の保守等の管理については、個々の鉄道事業者が行うよりも、専門的な
   技術力を有する保守業者等に委託する方が、効率的かつ安全に行える場合がある。
   このため、これらの管理を社外へ委託することができるよう、受託の受皿の整備と
   合わせ、適切な環境を整備する。

  ②  技術者の共同養成の促進
     小規模な鉄道事業者にとっては、一鉄道事業者だけで技術者の養成を行うことは
   困難である。このため、大規模な鉄道事業者も含め、複数の鉄道事業者が共同して
   技術者の技術力の維持・向上を図るとともに、そのための教育者を養成するしくみ
   を整備する。

  ③ 研究機関、公益法人等による技術支援
     高度な技術力を保有することが困難な鉄道事業者が行う鉄道運営を技術的に支援
   するため、今回の鉄道技術行政の見直しを踏まえつつ、交通安全公害研究所、
      (財)鉄道総合技術研究所の研究機関、日本鉄道建設公団、鉄道技術推進センター
      、技術系公益法人等を活用する。

  ④ 効率的に安全を確保するための技術開発
     ローカルな鉄道の経営環境は極めて厳しく、今後も一層の経費節減が求められる
      。このため、このような鉄道を対象に、安全を確保しつつ効率的な鉄道運営を行う
      ために技術開発に積極的に取組む。

(2)制度転換に伴い必要となる技術者の養成
    自己責任のもとで安全確保を図るため、安全性の現状分析、施設の老朽化の診断等
  鉄道の安全をチェックできる技術者を養成していく。
    また、国の職員は、これまで技術基準の策定、許認可等の業務を行ってきたが、今
  後、事後チェック型の技術行政を的確に行うためには、現場における判断等、より専
  門的な技術力も重要となる。このため、安全のみならず幅広い分野を対象に、専門技
  術の習得のための研修を行う等技術力向上のためのしくみを整備する。

(3)専門的な評価、分析体制の確立
    例えば構造物の老朽化の診断等の専門的な評価、分析を行うためには、その作業を
  専門家に委託しなければならないことも多い。このため、このような委託が行えるよ
  う、適切なしくみを検討する。

(4)利用者等の安全意識の向上
    鉄道事故の発生状況を見ると、踏切又は駅における事故が占める割合が著しく高い
    。このような事故の多くは、鉄道事業者のみの努力では解決できないものであり、鉄
    道事業者に加えて、自動車の運転者、鉄道の利用者等がそれぞれに安全確保のために
    役割を果たさなければならない。
    このため、自動車の運転者、鉄道の利用者等に対し、自らが鉄道の安全の一端を担
  っているという意識が高まるよう、国、鉄道事業者等が一体となって積極的に広報活
  動を行う。


Ⅵ 接続利便の向上等のための施策

(1)新たな建設や大改良に際し、鉄道事業者の努力を求めるための施策 
   新たな駅の建設、既存駅の大改良等大規模な計画を策定する場合、実施主体である
  鉄道事業者は、接続利便等の利用者利便の確保について、できる限り配慮している。
    しかし、駅等の構造物の建設には、空間や費用の制約から、利用者のニーズに十分
  応えられない場合がある。また、このような場合、改修が困難なため、長期間にわた
  り利用者に不便を強いることも多い。したがって、このような状況にならないよう、
  鉄道事業者が利用者利便の確保について積極的に取組むような環境を整備しなければ
  ならない。
    このためには、鉄道業者が、利用者等の意見も踏まえつつ長期的な視点から計画を
  策定することとなるような方策を検討する必要がある。

(2)既存鉄道事業者を含めた調整
    新たな路線を別の既存鉄道事業者の路線と接続する際に、その間の接続利便を確保
  するためには、新たな路線を敷設しようとする鉄道事業者の努力だけではなく、既存
  鉄道事業者の協力も不可欠である。
    しかし、現実には、既存鉄道事業者と新たに開業しようとする鉄道事業者との間で
  費用負担等について調整が難航することにより、必ずしも好ましい接続形態とならな
  い場合もある。
   このような問題が生じないようにするため、当事者間の協議を前提としつつ、当事
  者間の解決が困難な場合に、利用者の利便向上の観点から、円滑な接続が図られるた
  めの方策を検討する必要がある。
 

        第4章 将来に向けた期待と課題

  鉄道技術行政が本答申で示した方向に転換することにより、鉄道事業者の自由度の拡大
及び負担軽減による鉄道の活性化が期待される。また、情報公開等を通じて、鉄道事業者
と利用者との適切な関係が構築されていくことも期待される。そしてこの結果、我が国の
鉄道が技術面からさらに活性化し、鉄道が日常の足として国民の信頼と期待を今以上に得
ることを期待したい。  鉄道技術行政の転換が鉄道の発展に結びつくためには、その基礎
となる「鉄道の技術」が常に発展していくことが重要である。我が国の鉄道技術は、世界
で最高級の安全性、利便性、信頼性を持った鉄道を構築してきた。これまでの技術は、鉄
道事業者を頂点とするピラミッドを構築し、鉄道事業者が基本的な技術的判断を行うこと
により作り上げられてきた。この結果、それぞれの鉄道事業者に完結した技術は極めて優
れたものとなっているが、メーカー単独の技術力、鉄道事業者やメーカーの間の垣根を越
えた技術的連携の面では必ずしも十分ではない。
  現在、鉄道事業の経営環境の悪化、国内の経済環境の低迷により、鉄道事業の経営形態
が変化しつつある。具体的には、これまで一元的に鉄道事業者の中で保有してきた技術を
、一部外注化したり分社化したりすることにより、技術の分散化の傾向が見られる。この
結果、業務の近代化、活性化が期待されるが、一方で、鉄道全体の技術力がどのように変
化していくのか未知の面もある。また、経済のグローバル化が進み、海外の優れた製品が
多数使用されている。これまで比較的国内企業のみで成り立っていた鉄道の技術にも、今
後海外メーカーの本格的進出が考えられる。
  このような状況の変化に対応しつつ、今後とも「鉄道の技術」が全体として発展してい
くことが重要である。このためには、運輸技術審議会第16号答申において技術開発の推
進のために提案された事柄と同様に、メーカーの技術力の総合化・集約化、さまざまな技
術主体の連携の強化について国や各主体が積極的に取組むとともに、さまざまな技術主体
が相互に補いながら全体として高度な技術体制が確立できるようにしていく必要がある。
  なお、今回の答申の内容については、その具体化の状況をフォローアップしていくとと
もに、今後の技術的変化を的確に把握しつつ、逐次検証を行っていく必要がある。このた
め、今後とも運輸技術審議会においてフォローアップと検証を行っていくことが適当であ
る。


おわりに

  我が国の経済社会は、今大きな変化を遂げようとしている。鉄道技術行政も、従来の官
と民のあり方を見直し、新たな体系を構築していく必要がある。本答申は、このような視
点から今後のあり方をまとめたものである。
  本答申の趣旨を実効あるものにするためには、国が制度改正をはじめ、答申の実現に向
けて取組むだけではなく、鉄道事業者、利用者、メーカー、その他あらゆる関係者が、答
申の実現に努力していく必要がある。
  鉄道を支える多くの関係者が、このような認識のもとに、本答申の実現に向け努力され
、鉄道が、より愛され、信頼されるものとなることを期待する。
 なお、この答申の検討過程において、ICEの事故をはじめ、いくつかの鉄道の事故が
発生した。このため、委員一同、安全の確保がすべての根幹であることを改めて肝に銘じ
、審議を進めたことを付け加えておきたい。